史上最高のバレーマンガとなるか。『少女ファイト』

今回は昨日駒場に行く前に秋葉に行って買ったマンガ『少女ファイト』についてレビューしてみたいと思います。

少女ファイト(2) (KCデラックス)

少女ファイト(2) (KCデラックス)




ヤバイ。面白い。
1巻は去年買っていました。そのときも面白いと思いました。でもバレーのシーンもあまりなくてそれほど記憶に残っておらず、しかも2巻が出るまで半年も空いたので正直話も覚えてませんでした。でも2巻を読み、記憶が曖昧だった1巻を読み直し、また2巻を読み、また1巻から読み直し…


ヤバイ。面白い。


なんというか圧倒的な面白さです。高校に入って、チームメイトが出来て、歯車が実際に動いてみるとここまで面白いものだとは。既に昨日の夜から5回以上1巻から読み直しました。


自分は中学と高校の6年間バレー部に所属しており、中学時代は県大会で準優勝して九州大会に出たくらい、ある程度のレベルであったと言う自負はあります。しかしこのマンガの舞台は女子バレーでしかも既に全国トップクラス。私立の特待などの生活はさすがに自分でも体験していないので良くわからないのですが、それでも圧倒的なリアリティがあります。2巻から実際にバレーの練習をし始めるわけですが、その中の練習方法が自分のやっていたものとことごとく合致するんですよ。レシーブするには腕をふるよりもまずボールの下に入ることが大切で、学がやっていたバケツにボールを入れる練習を中学時代にやった覚えがあります。試合中の精神的な駆け引きも凄く具体的ですし。プレーではないのですが、自分が一番驚いたのが2巻180ページのこのシーン。

左の小指を押しながら落ち着こうと努力することで、次第に「小指を押す」と言う行為自体が落ち着くきっかけとなる。正に「パブロフの犬」ですね。実はこれも中学時代に自分達がやっていたんです。うちのチームの場合は左手首に輪ゴムをかけておいて、試合中にミスをしたときにこの輪ゴムをはじいてそのミスを忘れようとしていました。つまり輪ゴムをはじいたときの「痛み」でミスを忘れる、と言う考えだったわけです。こんなところまでちゃんと再現しようとしているのかと本当に感心しましたね。


そして何よりも日本橋先生が卓越している点といえば青春群像描写につきます。今までの『プラスチック解体高校』や『極東学園天国』なんかでもそうでしたが、登場人物のそれぞれの思いと思いをぶつけ合わせてたときの情景描写は群を抜いている。この2巻では特に伊丹志乃というキャラの人間的にいやな部分をこれでもかと見せ付けてくれるのに、それが全くいやみにならない。バレーボールと言うチームプレーが何より大切な競技だからこそ個人同士のぶつかりはより如実となっている気がします。


あとは全体的にマンガ的表現が巧いと思いますね。これから「絵」と言うより「マンガ」を勉強しようと思ってる人はぜひとも参考にしてもらいたいです。アップでは線を太く、引きの画面は線を細く、と言った基本をちゃんとやるだけでこれほどまでに印象が変わるのかと感心しました。1つの絵で見ると線も大体均一で、白と黒の2つしかないような印象なんですが、マンガ全体で見るとそんな平凡な感じには全く見えず、本当に「見せ方」が巧いなぁと。


ストーリーは主人公が大石練という女の子で、全国トップクラスの実力を持つ姉がいながら、その姉が春高の決勝直前で事故死し、そのショックを以前嫌いだったはずのバレーボールに打ち込むことで何とか紛らわしていました。ただそのバレーへの入れ込み方が尋常ではなく、次第にチームメイトに煙たがられていながらもそのことに気づかないくらいでした。中学に入る際に自分と同じ中学に仲間が誰も入らないことを面接当日に思い知らされ、それ以来バレーをやる上ではなるべく目立たず、自分を殺した状況になりたがるようになりました。そして自分を殺し続けて3年目のある日、練習試合に出る羽目になり、自分を抑えきれずチームのアイドル的主将だった京極小雪を怪我させる形となってしまい、またも心の傷を負ってしまいました。
その際、幼馴染だった式島滋と男子トイレの中で怪我を治すためのストレッチをしていたのが監督にばれてしまい、中学を休学。事実上の退学となってしまいました。そこで精神的にどん底に陥り、姉の墓の前にうずくまっているときに手をさし延ばしたのが、生前姉とチームメイトだった黒曜谷高校女子バレー部監督陣内笛子でした。そこで練は以前姉が春高の決勝まで連れて行き、姉抜きでも優勝を果たし、その決勝で怪我をしているにもかかわらずプレーし続け選手生命を絶った陣内監督が率いる高校に行く決心をしたのです。


このあらすじだけでは良くわからないかもしれませんが、2巻以降この黒曜谷高校に入ってから練のチームメイトとなるキャラが出始めてからはまたさらに深みが増してきます。とくに練に幼い頃いじめから救ってもらったことのある田切は陰の主人公とも言える存在で、練と高校で再会してからは運動経験全く無しの状態からバレーを始めたりして、練といっしょに成長していく様が爽快です。そして先ほど紹介したストイック精神の塊のような伊丹志乃、抜群のルックスと身長を持ちながら他人を羨望してばかりの長谷川留弥子(るみこ)、以前練と戦い負けた経験のあるアタッカー延友厚子、その厚子と幼馴染でいい加減な性格ながらもある程度なんでもこなすオールラウンダー早坂奈緒といった新入生達のキャラも明解で3巻以降の展開が非常に楽しみで仕方がありません。


自分はバレーをやっていたものですから、なるべくバレーを扱ったマンガは読んできたつもりです。でもバレーマンガを語る上でサッカーの『シュート』、バスケの『スラムダンク』などに匹敵するような作品には巡り合えていません。もちろん知名度で言えば『アタックNo.1』などでもいいんですが時代が時代ですし…って言うかちゃんと読んだこともないので判別しようがないって言うのが一番の理由なんですがw少なくとも今現在の若者に与える影響力は少ないと思います。
また、以前サンデーでやっていた『リベロ革命』は主人公にリベロを当てた着眼点は良かったものの、少年漫画特有の変に必殺技とかにこだわった「ありえなさ」が後半目に付いてきたのも痛かった。
現在連載中のものでは別冊マーガレットの『紅色HERO』がありますが、こちらはバレーを通した恋愛描写の方がメインなのでバレーマンガとして語るにはちょっと弱いかという感じがします。プレーの絵もやっぱ動きが不自然だと思っちゃいますし。


その点でこの『少女ファイト』というマンガは現代版『アタックNo.1』になりうる可能性を一番持った作品だと思いますし、個人的にはそれすら超えてスポーツマンガ全体でも伝説的な作品になってくれるような期待をして止みません。ただネックは掲載誌がイブニングでマイナーと言うこと。この点はがんばってアニメ化とかしてもらって知名度を延ばして欲しいものです。


まだ2007年は始まったばかりですが、個人的には既に今年のベスト1のマンガが出てしまった感じがします。もちろん今後いいマンガが出るでしょうし、次のコミックスが出る頃には忘れてしまってるかもしれません。しかし第3巻は2007年の秋予定。その時期にコミックスを買った自分は絶対にまたこのブログに書くと思います。


ヤバイ。面白い。


と。