「水平線まで何マイル?」レビュー

長らく間を空けてしまいましたが「水平線まで何マイル?」のレビューをやって見たいと思います。
まずはこちらの体験版プレビュー朋夏クリア以降の日記を読んでいただければ自分が今までこの作品をどういう風に見て、そしてプレイしていったのかわかると思います。
それを踏まえたうえでネタバレレビューは続きからどうぞ。

1、キャラ、世界観

こちらは体験版レビューを書いた時とほとんど印象は変わっていません。全体的にとても魅力的なキャラが多くてやってる間は楽しく見ることが出来ました。シナリオが佳境に入っていってもどのキャラも想像通りの葛藤が多かったので意外に思ったのはほとんどありませんでした。逆に言えばひねりがないとも言えますが、このストレートな部分こそこのゲームの強みかと。
ただ何度も書きましたが主人公に最後まで魅力を感じられなかったのは大きな減点対象です。よくある「いいひと」キャラででも恋愛については鈍感。本当にこういう人物がもてる理由がわからない。というよりはヒロイン達の感情の変化というか性格的な部分に関しては敏感に反応して対応するのに、ことそれが自分に対する興味や好感というものになると感じられないって言うのはありえないでしょうと。もしそういう場合があるとすれば、好感を持たれている気がするけどそれは自分の都合の良い思い込みだとか、好感持たれているのは気づいてるけど自分は女性と付き合うにはトラウマがあるとかそういう理由付けがほしいところです。


また世界観についても期待通りのものが出来上がっていましたのでこちらもほぼ満足だと思います。「空と海」というテーマでしかも部活もの。季節は。こういう部分に惹かれて購入し、それで後悔しなかったと言うのは評価に値します。

2、イラスト、背景

このゲームの長所その2と言って良いでしょうグラフィック部門。原画家深崎暮人さん。そして背景は草薙と完璧な布陣と言って良いでしょう。ちなみにグラフィッカーの中にはロリ漫画家の佐々原憂樹さんの名前もあったりしました。


デザインに関しては最初はあのノースリーブの制服(朋夏と麻里矢のみ着てる)があんまり可愛くないなぁと思ってたんですが、やっているうちにまあ見慣れてくるもんだなぁとwあと残念だったのは飛行機の詳細なデザインがほとんど見られなかったこと。まあ差分を用意するのが面倒だったんでしょうが…

3、シナリオ

ここがゲームを実際にクリアしてきてからわかった項目ですね。
結論から言うとわりと本気で期待はずれな出来だったというほかありません。


まず特筆すべきだったのは短いということ。8800円払うにはちょっとボリュームが少なすぎだろうという感じは否めません。あまりにも短かったので最後にトゥルーエンドみたいなルートがあるのかと期待しましたがなくてがっかりです。またこれに付随することですが、バッドエンドもありません。まあこれはそこまで問題ではないでしょうけど。


次に来るのは主人公の薄さが影響した感じでした。1であげたようにとにかく主人公が微妙だったために、主人公が取る行動に共感が出来ず、またそれによって状況が好転するのも理解不能という部分が多かったです。
例えば沙夜子ルートでの話。沙夜子は大会に優勝できなかったため、父が敷いたレールを進まなければいけないためにわざと主人公達と距離を置こうと冷たくあしらいますが、主人公はそんなレールに無理に従う必要はないと説得をします。しかし沙夜子はすでに父と何度も話し合い自由の身を得ようとしましたが、結局認められたのは「卒業するまでの自由」でしかありませんでした。それでも何とか沙夜子の態度が軟化してきたというところで沙夜子の父が倒れてしまい、いよいよ沙夜子が父の後を継ぐというところまで来ました。なのにその場面で主人公の説得が「お父さんは先輩が空を飛ぶことを喜んでくれたんですよね?」というわけのわからないものでした。そしてその一言で沙夜子は主人公達の元へ帰ってくるという意味不明さ。
沙夜子と父は一体どんな話し合いをしていたのか。それは父親の敷いたレールに沿う人生は嫌だということでしょう。でもそれは何度話し合っても上手くいかず、最大限の譲歩が「学園生活が終わるまでの自由」だったはず。だったら父親が倒れた時点でもう沙夜子は父の後を継ぐ「責任」があったはずですよね。なのにそれを主人公が「父は空を好きになった先輩を認めてくれた」というわけのわからない説得をするわけです。もし最初から父が沙夜子が「空が嫌いだった」という理由だけで卒業後の自由を奪っていたのならそれこそ意味がわからないですし、たとえ空が好きになった沙夜子を認めたとしてもなんでそれで父の後を継がなくて良いという話になるのか。もう自分はこのクライマックスシーンで頭に?が浮かびまくっていました。


結構細かいネタバレを書きましたけれども、ようはこの作品のシナリオには「説得力」というとても重要なものが抜けているのが非常に残念ということです。ただメインの朋夏と麻里矢の話はテーマがスポコンになっていくので説得力というよりは勢いが大事なので割と普通に楽しめました。ようはそれ以外の3人が、はっきり言ってこのシナリオなくてもよくね?としか思えないくらい中身の薄いものとなっていた気がします。

4、音楽

こちらも作品のマイナスイメージとなる部門となりました。BGMに関してははっきり言ってまあ及第点と言っても良いでしょう。なかなかにアレンジは工夫されていて場面にあったものが多かったとは思います。ただ「あの場面であのBGMがあったのが印象的だった」と思えるような曲ははっきり言って全然なかったです。


そしてそのBGM以上にひどかったといわざるを得ないのが主題歌の3曲。プレビューでも書いたとおり、挿入歌の茶太の「水平線まで何マイル?」はまあまあですが、それ以外の2曲の存在感の薄いこと薄いこと。OPは本当に神月社が作ってるのか?と疑いたくなるくらい映像との親和性が悪かったですし、EDは都合5回聴くことができたわけですが全然メロディーどころかサビも思い出せません。始まりと終わりを告げるこの2曲がこんな出来ではプレイ後のユーザーにポジティブなイメージが残りやすいはずがありません。

5、システム

最後にシステム面。こちらはまず何と言っても画面比の16:9ウィンドウインパクトありました。はっきりいってこの試みは他のエロゲにも多大な影響を与える気がします。ようは今作のようにグラフィックの美しさをメインで見せたい作品はこぞってこの方式を取り入れるんじゃないかと。それくらいこの画面はインパクトがありました。
また百科事典機能は面白かったですね。すでに似たような機能を付けてるゲームも多いと思いますが。1キャラクリア後にそのキャラのキーワードが微妙に変わっているのは面白かったです。ただプレイ感想でも書いてますが、バックログでのキーワードリンクも是非付けてほしかった。


逆に物足りなかったのはゲーム性のなさでしょう。簡単に説明してしまうといわゆる作業ゲームになってしまったこと。グライダーを作る作業に入ると「パイロットの練習に付き合う」と「機体の製作を手伝う」の2つが必ず毎日出てきて、パイロットの方を手伝うと朋夏と麻里矢(登場前でもこっちになる)、期待を手伝うと陽向と湖景、2つをうろうろして特定のイベントを出すと沙夜子という感じになっていて、はっきり言って攻略している楽しみは皆無と言って良いですね。ちなみに同じようにうろうろしてても沙夜子とのイベントを発生させないと朋夏のルートに入るみたいです。

総評

プレビューでは90点を付けましたが、クリア後は70点というところでしょう。
まずポジティブな点は上の項目からキャラ、世界観、グラフィック、シナリオの一部、システムの一部といったところ。逆にネガティブな点はシナリオの大部分と音楽、そして主人公とゲーム性のなさというところでしょうか。正直やっぱり期待値が高すぎたなぁというのが個人的な感想です。多分あまり期待せずにさらっとやる分にはもうちょっと点数が高くなるかも。ただ自分と同じように期待していた人は多分70点どころか60点くらい付ける人もいるかもしれません。


ただこのABHARというブランドが偉いのは一度も延期をしなかったこと。締め切りを守るのはとても良いことです。ですからこのブランド自体にはまだ期待しても良いと自分は思っています。次回作は是非シナリオの推敲(面白いというよりはしっかりとしたものを作るのが大切)と、音楽の委託先を変更して欲しい。個人的にはまた今回みたいに爽やかなものを作って欲しいですね。全く正反対な陵辱ものになるとたぶん手が出ないと思うので…。


あと最後にアドバイスするとメインの朋夏は最後にやった方が良いですよー。っていうかブランド側がこういうシナリオは最後にしか出来ないように誘導してくれるとありがたいんですが。最初に朋夏やっちゃったせいでかなり尻すぼみな作品になっちゃいましたしね。またエロシーンも増やしてくれるとありがたい。自分は一回でも良いけどやっぱそれ目当てで買う人もいるわけですし、わざわざ18禁にしているわけですからね。